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嘘の中の真実と現実の中の嘘

 ある、お好み焼き屋の前を通ると、私はいつも胸をわし掴みにされる様な思いがこみ上げる。そして、高校時代の友人Sちゃんの事を思い出す。彼女の強烈な思い出は必ず私を疲れさせる。
 S子はいつも宙に浮いた様な子だった。彼女と接している私はいつもその儚さと不安に足を取られそうだった。彼女には友達がいなかった。私はふとしたキッカケでクラスの違う彼女と友達になり、たまに一緒に帰ったりしていた。彼女に友達がいないのには訳があった。簡単に言えば、S子は嘘吐きだったのだ。しかもその嘘はいつも突拍子もなく、唖然としてしまうのだ。例えば、今、ジャニーズの誰と付き合っているのだが、俳優の誰に告白され困っている、から始まり、家は豪邸で召し使いが十人いる。とか、今度は新しいドラマの撮影で、今から自家用小型機で東京に行くんだ、などなど・・・。東京で発売されている雑誌には好きな芸能人ナンバーワンであった、と言われても私には信じる事が出来なかった。しかし、私はその話を何故か決して否定しなかったし、疑うそぶりも見せなかった。それにはあるキッカケがあったのだ。
 いつもの様に彼女の話を聞きながら下校している時、彼女の鞄から分厚いスケジュール帳がのぞいた。私はとてつもない興味で彼女に懇願しそれを見せてもらったのだ。私の心のどこかで意地悪な虫がすこし騒いだ。軽い気持ちで見たそのスケジュール帳には、びっしりと仕事の予定が小さく可愛い字で書き込まれてあったのだ。映画の撮影のクランクイン、グアムでの写真集の撮影・・・。彼女は忙しいのよ。とポツンと呟いた。見てはいけない物を見た、踏み込んではいけない所に踏み込んだ、そんな気がして無責任な自分に、無力な自分に涙が出そうだった。確か、その日の帰り道、私たちは制服に不釣合いな百貨店のカフェで、もそもそとイチゴパフェを食べた。
私は喉に通る甘いクリームで薄っぺらい罪悪感を飲み込もうとしていた。彼女はパフェを半分以上残していた。
 S子は嘘など吐いてはいないのだ。彼女には全てが本当であり、撮影会は真実なのだ。現実ではない真実というものがその時の私には理解できなかった。パフェを食べながら、
「ここよりも、事務所の社長が連れて行ってくれる銀座のパフェのほうが美味しいわ。」
と私に言った。そして私は少し安心したのだ。
 私に彼女の作った世界を壊す事は出来ない。思春期の女の子には誰でも多少の嘘をついて注目を浴びたい思いがある。彼女は病気なんだ。と周りの友達は私に言っていた。虚言癖っていうらしいよ、だからあんたも近寄るのやめな。
 私には彼女の話を聞く事しか出来ない。彼女を救いたい。そんな安易でおごった考えだった私はそれからも彼女の話を聞き続けた。
 卒業間近のある日、私は学校帰りに近所のお好み焼き屋に誘った。私にとってその薄汚れたお好み焼き屋ということに非常な意味があった。そこで豚玉なんかを食べながら、青海苔を歯にくっけて。そこでは私たちはただの十七歳の女の子だった。少し背伸びをしたいだけのただの女の子だった。卒業後、彼女は東京で専門学校に通いながら仕事をするんだと目を輝かせていた。私には頑張ってねと言うしか出来なかった。店を出て、温かくなり始めた風が彼女の髪を撫でた。柔らかい髪の毛が、私には悲しかった。彼女の存在が風にさらわれそうだった。
 何を恐れ、何を守り、何にすがるのか。彼女の価値は、人間の価値は、ただそこに生きているだけでは駄目なのだろうか?一体、いつ誰が彼女を否定したんだろう。もしかしたらそれは私なのかもしれない。私が一番、彼女を理解した振りをして傷つけたのかもしれない。
 十七歳の女の子が並んで歩く下には道があった。似た物同士で、傷を隠して、女の子たちは歩き続けている。
  お好み焼き屋の前を通ると願う。S子は誰かに愛されているかな?誰かに大切にされているかな?愛されていて欲しいな。と・・・。彼女の幸福を願う私はそうする事で罪の意識から逃れているのかもしれない。しかし、その反対で、もしかしたら、今になってやっと私は彼女の友達になれたかもしれない、とも思う。こんな、私は絶対にちっぽけなんだろう。

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