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人間

地に映る影の弱さに、困惑の顔。猫背の人間が独り、紅い
腹で地面をひたすら転がった。今朝見た夢は、それは非常に
リアルで恐怖が押し寄せる。天井に沢山の穴。確かなモノは素敵だと叫ぶ夢。人間は次第に諦め始めた。そして静かに体を止めた。そして立ち上がり、自分の転がってきた地面を眺める。そこには、破れながらも赤絨毯が敷き詰められているのだ。人間は、家に帰る。猫背のまま、家に帰る。

垢に汚れた、猫が鳴いた。それは午前二時の話だ。人間は、ほこりっぽい部屋で、泣き声の主を待つ。空気はじっとりと身を包む。朝はやって来る。泣き声を出さずに、しかし、唐突に。あれはどうして憎たらしい。
顔も色あせて、沈黙の匂い。空の内臓が静かにうめく。
それは痛みの延長線で、人間はただ、うずくまる。丸くなる。団子の体をより一層丸めて、手でこねるように体温を感じる。その日に人間は泣く。訳の解らないいらだたしさに、鳴く。
猫はその時はもうすでに布団の中。喉を鳴らせて目をつぶる。

動かす体の筋力が鬱陶しく感じ始めた。しかしそれは始まりなのだ。人間は軽い頭を左右に揺らす。そして、そういえば・・・、と思い出し、足の爪を切る。現実の中は水槽の画の様にきれいで、蒼い。でも、それでも水槽には赤潮の揺らぎ。
しかし、まあ、とにかく爪は上手く切れた。人間は切った爪のカスを金魚にあげる。そして、もう腹八部目はとうに越して、わき上がるものを飲み込むのだ。ぐっと、力を込めて飲み込む。

ドノヨウニ?その問いが宙吊りで、狭い部屋をさらに狭くさせる。人間は答えを待つ。ひたすらに、息をしながら待つ。そして、自分の手は昆虫の羽の光沢に劣ると確信したときに、解った様な気がした。しかしそれはあくまでもふざけた回答にすぎない。焦る。物音の息が静かになった頃、その洗練された景色をみて、納得をするのだ。待つという事に。待つという事の地道さに感動すらするのだ。何も解ってなど無いのだけれど、それはしらっと空気の温度を下げる。そのある種の完璧さに震え、感動する。

ふとした時に気が付く。そういえば、いつも独りだということを。何をしても終わりは、必ず独りなのだ。それに、耐え得るだけの忍耐はまだ、持ち合わせてはいない。しかし、そうだ、そんな忍耐と言うものは、いつまでも持つ事はできない。ならば!それならば、もう必死になって、やるしかない。人間は、その悲しみを受け入れて闇の中ひっそりと肩を揺らす。さて、今日は一体どんな夢が人間を包むのか?ただ、この時を眠って待つ。白い現実も、青い息も、黒い夢も、何もが人間をいたわる様に皮膚をなぞる。全ては、優しいのだ。羽毛のように、柔らかい。その中で、あえて孤独を覚えて、人間は苦しみを選ぶ。舐めるように味わって苦しむ。独りのコーヒー。

また、ある日は口をモゴモゴさせて、小さく、確かに、何かを呟く。
「・・・・・。」
人間はその余りの無力に困惑もするのだが、いつもその後は少しだけ、ほんの少し、笑う。人間は人間の問いに愚問だとは感じない。なぜなら、腹はまだ紅く、背骨の突起がいつにも増してざわつくからだ。皮膚は波をたてる。瞳孔は満月。
しらふでコノざわめきを受け入れられるのは自分しかいないと解る。人間は眠る。目を閉じ、黒を見る。真剣に、黒を見る。

感覚の波に身を委ねる。強固な四肢がそれに反発。よりにもよって、今朝は雨。人間は猫じゃらしを噛んで、体を打つ強烈な妄想に酔いしける。一瞬、瞬きの裏の茶色い目蓋に船を見た。この雨がやまずにココが海になるのだ。広がる妄想は防波堤をも打ち壊した。人間の脳裏に冷たい水が流れ込む。しっとりと膨張して、膨らんだ肉はだらりと力を無くし、流れに漂う。その時、人間は自分の弱さに気が付く。自分の弱さを認める。

人間は自分の心に問うた。あらゆるこの世の最終体系を。しかしそれはひっそりと何処かにかくれんぼ。
また、人間は自身の体に問うた。全ての求めるところを。しかしそれは頑丈にも押入れの襖を開けてはくれない。人間は最後に、此処だけのただ、此処だけの我がままにも似た居場所を問うた。それは、足元に証明されていたのだ。ぼんやりとした感覚で、確かに居場所は存在を訴えていた。
嗚呼、そうだ。歩かなくては。耐えて、ひたすらに、耐えて、歩かなくては。それは、強い。

ある日、人間は歩きながら、足元の違和感に気が付く。そして自分の足元を見つめた時、その原因を見付けてしまったのだ。なんということか!人間の体から伝うように黒っぽい血管が、渦を巻き足元に絡みついている。人間は猫背をより丸め、それをほどく。よくみると汚らしい跡を残し人間の歩いてきた真っ白い画用紙にもそれは汚れのようにへばり付いているのだ。独りで顔を赤らめ、その醜態を恥じ、焦りながら過去にも似たその汚れを拭き取る。いつしか人間の汗が汚れを広げ白い画用紙には一面の茶色いシミ。太陽がさし光の乱反射を吸い込んだ時しかしそれは余りにも美味しい匂いをたてるのだ。そしてそのまま歩くことを決意。諦めではなく、確かな心地よさで、シミを作りながら歩く。

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