足りない事に生き続ける
女は嫉妬している。男が、自慰行為をする彼自身の手に激しい怒りを覚える。もう、時間が無いの。女は泣き叫ぶ。
ねえ、貴方知っている?卵子の数は決められているの。
女はある日の晴れがましい朝に自分の陰部を切り取った。そして、その空洞を埋める何かを探しに、旅に出た。切り取った陰部は冷凍庫で静かに彼女の帰りを待つ。しかし女は家を出て、三日後に近所のスーパーで卵を盗んで捕まった。
そのまま女は養鶏場へと送られた。そのころには冷蔵庫の陰部はすでに干からびている。
女は毎朝5時に起き、卵を産んだ。
ある、幸せな家庭で子供が朝、生卵を割った。
お母さん!これ血が入っているよ。
あら。そんな卵は捨てなさい。
その子供は、成長して男になった。自慰行為をするその手は、少なくとも、一割くらいは卵で大きくなっただろう。そして、女は2年前、卵を産まなくなって、食肉用へとまわされた。女の意識は肉の破片になってもまだ少し、残っていた。スーパーで買われ、冷蔵庫へと入れられた。隣には、彼女の帰りを待っていた黒くしなびた物体が、か細く、おかえり・・・。
肉片の女は、フライパンに飛び込むまでの数時間、世界で一番悲しく、惨めで、幸せだった。
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